オレがキミがいないと嫌だと言って、キミを困らせたことがあったね。
でも、そんな時。キミは必ずオレに話と、約束をしてくれたね。
切ないから
キミが任務に赴くと、アジトの中は急に味気なく感じます。
もちろんキミをいつも大切に想っているつもりだけど、それでもやっぱりいなくなるとキミのありがたさが身に沁みて。
キミの傍にいたいが為に、オレはボンゴレの10代目になったのに。肝心のキミは暇さえあれば世界を飛び回って。
…世の中、中々上手くいかないもので。
……けれど、だからこそ、忙しい時間の合間を縫ってオレに逢いに来てくれるキミの心遣いが何より嬉しくて。
今回も、任務に行く前に情報整理や会議があって。寝る時間すらも惜しい状態だったのにキミはオレに逢いに来てくれて。
次の日には姿を消してしまうキミをオレは引き止めたくて。それを分かっているキミは困ったように笑って。
優しくオレの頭を撫でて。オレに話をしてくれて。
10代目、こんな話を知っていますか? 全ての人が眠っている空に、月は浮いているか。
…? 知らない。
夜、全ての人が眠ります。だから誰も夜空に月が出ているかどうか確認出来ない。
―――でも、月は出ているに決まっているじゃないか。
はい。その通りです。それと同じです。
―――――え?
………オレは明日、遠い地に行きます。連絡もほとんど出来ません。
……うん。
でも、必ず夜空に月が出るように。オレも貴方と同じ空の下に必ずいますから。
―――うん。
…ですから10代目、行かせて下さい。
………。
10代目?
ヤダ。
10代目…
約束。してくれないと、離さない。
約束…ですか?
そう……獄寺くん、絶対、絶対に、オレのところに帰ってきて。
………分かりました。約束します。
うん。獄寺くん、キミは―――
オレは、貴方のところに、必ず―――
「………帰ってきます、か…」
気が付けば、日はもう既に落ちていて。
辺りは暗くて。窓から綺麗な星空が覗いていた。
オレは一人立ち、窓から空を見上げる。
時間が時間だからだろう、窓から見える民家からは明かりが全て消えていて。
まるで自分だけが眠りの枠から弾かれたようで、少しおかしかった。
……彼の、愛しい彼の言葉が蘇る。
全ての人が眠っている空に、月は浮いているか。
…浮いているに決まってる。
月がいきなり消えてしまうわけがないのだから。
そう思って空を見上げる。―――けれど。
月は、どこにもなかった。
ざわりと、身体の中を何かが走る。
……少し考えれば、いや、考えなくとも分かること。新月。だから月は見えない。
見えないだけでそこにある。必ず、必ずだ。
ざわり、ざわり。
そう思ってもこの感覚は消えてくれず。オレはどうしようもないほど不安になる。
…ああ、この空の下にいるはずの獄寺くん。オレの愛しい獄寺くん。
どうしてキミは未だ帰ってきてはくれないのですか。
あの日から消えてしまった獄寺くん。何の連絡もくれない獄寺くん。
任務に失敗したのかと思いきやそうではなくて。彼に任せた敵対ファミリーは壊滅していて。
でも、なら。何故キミは帰ってこないのか。
―――月なんて、見上げなければよかった。
そうすれば、オレは他の住人と同じように夜空に月が浮かんでるだろうと思えたのに。
―――月なんて、見上げなければよかった。
そうすれば、オレは他のファミリーと同じように、彼のことを信じてあげれたから。
……獄寺くん、早く帰ってきて下さい。早く戻ってきて下さい。
もうオレの心は限界です。オレの心は折れてしまいそうです。
早くオレとの約束を守りに帰って来て下さい。
―――――キミがいないと、こんなにも―――切ないから。
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「もう一度だけでも」に続く?