夢を見ていた。昔の夢だった。心地良い、夢だった。


その夢を覚めさせたのは、もう随分見てなかった日の光と、赤い紅葉と――



面影



…眩しい。


最初に感じたのは、それ。


光…?


最初に思ったのは、それ。


――ひらり。


紅葉?


「な…んだよこれ。こんな洞窟がこんな所にあったなんて…って、え?」


―――最初に見たのは、懐かしい秋の葉と……



「……え、あの…こんにちは」


「………」


「オレは、その…沢田綱吉って言って。その、キミは……?」


「………」


「………っ」


根性のない奴……


オレは内心溜め息一つ吐いて、泣きそうな顔をしているそいつに言ってやる。


「戻れ」


「…え?」


「……ここが光に当たることは、地震か何かで地盤が崩れたんだろ? ここは不安定だ。帰れ」


「で、でも…キミは?」


「オレは良いんだよ」


「………」


「っ………」


「…なんだよ」


「大丈夫なわけ…ないだろっ」


「あ?」


「そんなに、ぼろぼろで…傷だらけで……って、それに鎖…?」


そいつはたどたどしい足取りで、ゆっくりとこちらへとやってくる。



――ああやめろ。オレはもう、これ以上――



バシッ


「っ!?」


「……くんな。帰れ」


「なんっ…」


「オレは、魔物だ。来たら呪われるぞ」


「!?」


「分かったか? 分かったら―……」



――ぎゅ。



「な…っ!?」


「………悪い魔物には、見えない」


「ば、馬鹿! 魔物に良いも悪いもねぇんだ! 魔物ってだけで駄目なんだ!!」


「そーゆーのって、人間側の理屈っぽいのに。おかしな魔物くん」


「なんだその魔物くんって!」


「いや……名前教えてくれないから……」


「……………」


「魔物くん?」


「オレはんな名前じゃねぇ! 獄寺だ!」


「ああ、そんな名前なんだ。思ったより普通だね」


「………」


「………ね」


「んだよ」


「獄寺くんって、呼んでいい? あ、オレのことはツナって呼んで。みんなそう呼んでる」


「……好きにしろ…っていうか、お前また来る気か?」


「………駄目?」


「―――――……………」





「好きにしろ」





その日から。そいつは毎日来た。


そいつは毎日、何か手土産を持ってきて。


毎日、珍しいことや平凡な日常を、話していった。


気が付くと。あいつが来るのを楽しみにしている自分がいて。


気が付くと。あいつが来る時間帯になるのをじっと待つ自分がいて。


その日は、入り口に紅葉が舞っていたから。


それを手に取ることを言い訳に、入り口に近付いてみた。


じゃらり、と左足首の赤いそいつが揺れ動いて。



―――鎖が、軋んだ。





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そしてそれを見て己を思い出す。