目を開けると、心配そうな顔の10代目と鉢合わせした。
10代目はオレに気付くと、ぱっと喜び、そうかと思ったらはっとした表情で今度はむっと怒った顔をした。
10代目面白いなーと、少し不謹慎なことを考えていると
「獄寺くんのバカ!!」
怒られた。
しかもその目には涙が浮かんでいた。
あー……やばい。どうしよう。
おろおろしながら、それでも何とか10代目を落ち着けさせようと言葉捜すが、出てきた言葉は一つだけ。
「えと、その……すみません」
「謝らないでよ・・・!!」
しかしオレの言葉も10代目には逆効果だった。ますます涙が浮かび、零れる。
「シャマルから……話は聞いたよ」
俯いた顔を上げながら、10代目は言葉を紡ぐ。あの馬鹿医者……
「なんで、黙っていたのさ」
流れる大粒の涙を拭おうともせず、10代目は真っ直ぐにオレを見て聞いてくる。でも、オレには一つのことしか言えない。
「その…すみません」
「謝らないでったら!」
また10代目に怒られた。けれどそれ以外に言う言葉がない。見つからない。
「ずっと、痛かったんだね」
「………10代目」
「ずっと、苦しんでたんだね」
10代目は、ぎゅっと、オレの服を掴んで、顔を埋めた。
「ごめんね…ごめんね、獄寺くん……」
10代目は謝っていた。泣きながら。
「謝らないで下さい……」
「だって、だって……オレが…煙草、止めさせたから」
「いえ、あまり薬に頼りたくなかったので、いい経験になりました」
続けて声を出そうとするも、上手く呼吸が出来なくて失敗する。
「……っ」
「ご、獄寺くん?」
10代目の心配そうな声。だけどオレはそれに気付かないフリをして。
「……10代目。お願いがあるんですけど…聞いてくれますか?」
「な、なに…?」
「10代目の右腕の座は…山本にあげてやって下さい」
「―――え」
はっとした表情で、俯いていた顔を上げて、10代目はオレを見上げる。
「……なに、言って」
「オレの他には…10代目の右腕になれるのは、あいつぐらいしかいませんから」
といっても、まだまだオレには程遠いですからびしばし鍛えてやって下さいね。
「………だ」
「え?」
「いやだ。…オレの他になんて言わないでよ…っ ――オレの右腕は、獄寺くんだ。…獄寺くんしか、いない」
思わず目を大きく見開いてしまう。だって、10代目は……ああ、そういうことか。
「……10代目。オレ知ってるんですよ? 10代目がオレのこと疎ましく思っていることを。オレよりも山本のほうを頼りにしていることも」
ぴくりと、10代目が揺れる。少し強く言いすぎたかもしれない。けれど、次の瞬間には10代目はオレを見据えて…というか睨んで……
―――パァンッ
オレの頬を、叩いた。
「バカ! それっていつの話だよ!! 確かにオレは、獄寺くんのことそういう風に見ていた時もあったさ!!」
10代目はぽたぽたと涙を流しながら、大声でオレを怒鳴る。
「でも…っ、ずっと獄寺くんと一緒にいるうちに、怖いなんて思わなくなってきて…次第に、ずっと傍にいて欲しいって、思うようになってきて……」
オレは何も出来なかった。というか、10代目の台詞の意味を理解するのに精一杯だった。
……えと、10代目は、オレのことを…疎ましく思っていて…でもそれは、最初だけで……今は……今………
ぼんっと、顔が赤くなったのが分かった。湯気が出てるかもしれない。
「こ、光栄です……」
………ずっと、そうだと思ってた。
初めてこの人に会ったときから、良い印象を持たれてないと思ってた。
オレがどんなに頑張っても、それが裏目に出てますます怖がらせてしまってるんだと思ってた。
オレよりも、山本とか、跳ね馬とかが頼りにされてるんだと思ってた。
―――――なのに。
この人は、オレのことを怖いなんて思わなくなって。それどころか、好意まで寄せて頂いて……
「嬉しいです。10代目……本当に、嬉しいです」
それは、本当の、オレの本心。
けれどこの胸が裂けるような痛みは嬉しさの想いだけじゃないことを、オレは知っていて。
どうしようかと迷っているうちにも、その痛みはどんどん増してきて……
オレは………
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きっと、ずるくて辛いことを、言うことにした。
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