小さな子供の行く末は



僕の名前は獄寺隼人。


獄寺家の子供です。


獄寺の子供は数多いです。


だから使えない子供は捨てられます。


道具のように扱われて。


壊れるまで酷使されて。


そして使えなくなったら捨てられます。


僕は獄寺家の一番の末っ子だから、期待はされていませんでした。


そんな僕に、一体どれだけの価値があるというのでしょう。


ただ周りの好きなように道具のように使われて。そうして終わることが決定している人生。


しかもそれは自分でなくても良くて。自分の他にも使い勝手の良い子供は本当に沢山いて。


ただ…そこにあったから。…強いて言うなら、目を引いたから。


そんな理由で使われる身体に、どれだけの価値が。


碧の目。銀の髪。


こんな物 要らないのに。


僕はみんなと同じが良かったのに。


ぼんやりとそんなことを思いながら歩いていたら、足が縺れて転んでしまった。


直ぐに起き上がって、服に付いた埃を払う。


膝と腕を擦り剥いて。血が滲んでいた。


…この身を流れる血はみんなと同じ赤いのに。


どうして僕の目と髪は違う色なんだろう。


異質の色。要らない色。望んでない色。異様な色。


傷口に爪を食い込ませてみる。


爪が肉を喰い、傷口が広がった。


赤い滴りが腕を伝う。


みんなと同じ色が僕を染めていく。


更に爪を深く深く傷口の中へと入れていく。


赤が広がる。色が広がる。


僕は更に更に深く傷口を抉ろうとして―――



「…何を、している?」



聞き覚えのない声に止めた。


声の方へと振り向くとそこには白衣を着た見知らぬ男。


男を見ながら、自分に言われた言葉を反復してみる。


…何をしている?


何をって、僕は…


そこではっと正気に返った。


気が付くと、腕は血塗れ。傷を痛めつけた爪には肉が喰い込んでいて。そして何よりも白のシャツが赤く染まっていた。


…ああ、困った。服を汚してしまった。


捨てられるだろうか。こんなことで服を汚した僕を。要らないと言われてしまうのだろうか。


どうしようかと困っていると、


「おい」


また男に声を掛けられた。


あ―――そういえば"大人"に声を掛けられたらきちんと返事をしなくてはいけないのに。なのに…しまった。無視してしまった。


ならばこれは確定だ。僕は不要な子供として捨てられる。要らない物として壊されて捨てられる。


「―――おいって、お前痛覚どころか耳までいかれちまってるのか?」


男がやや苛立ったように言って、こちらに近付いてきた。


僕はこの男の手で捨てられるのだろうか…などと思いつつ。


「…!?」


ふらりと世界が暗転して…重い身体がどさりと硬くて冷たい床へと倒れこんだ。





目が覚めると、そこは柔らかいベッドの上。


………?


ゆっくりと身を起こして。辺りを見渡す。


白を基調とした室内にかおるは消毒水とコーヒーの匂い。


見覚えのない部屋だった。


…ここは…一体?


「目は覚めたか?」


声が聞こえて。それを追うと一人の男の姿。


それを見て思い出されるは目を覚ます前の記憶。


そこで腕に違和感を感じて。見てみると赤い血液は消えていて代わりに白の包帯が巻かれていた。


「もっと寝とけ。お前熱があるんだぞ」


男は僕の頭をぽんぽんと叩いて。僕をベッドへと寝かす。


「全く…なんで誰にも話さなかった? 数日前から身体の不調には気付いていただろうが」


身体の、不調…


確かにここ何日か前から食欲がなかったりふら付きを感じたり上手く思考が纏まらなかったりしたけど…


けれど、それをなんで黙っていたかって。それは簡単で単純なことだ。


「…から」


「ん?」


「いう ひつようが、なかったから」


何故だか男は言葉を失った。


けれどだって、誰かにこんなことを話すなんて本当に必要も意味もないことだ。


だって、自分は獄寺の子供なのだから。


換えの利く子供。使い捨ての子供。大人の物。それが自分たちなのだから。


それが常識。この世界の常識。僕の常識。


だけどこの人の反応を見る限り、もしかしてそれは違うんだろうか。


僕には分からない。ああ、それよりもそんなことよりも気になることがあるんだった。


「…あの、」


「なんだ」


「僕は いつ捨てられるんですか?」


「あ?」


「僕は服を汚しました。僕は大人の呼び掛けに応えませんでした。僕は要らない子です。不必要です。だから捨てられます。それはいつですか?」


「………」


男は暫く黙っていた。


そして…僕の頭をわしわしと少し乱暴に撫でて。その手を目の上まで持ってきて。


「寝ていろ。…ったく、この屋敷の人間は…」


男は僕の質問には答えてくれませんでした。


しかし不要な物である僕が質問をすること自体が愚かだったんでしょう。


僕は男の言う通りに眠ることにしました。


眠って起きたら。捨てられているんだろうか、なんて思いながら。





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けれど予想と反して。

僕は目が覚めてもベッドの上に変わらずいました。

直ぐそこには、あのひとがいました。