生まれ来る事が罪ならば 愛し合う想いも罪だろうか
……そんなの決まってる―――――罪だ。
裏切りと恋の狭間
もう、いつからここにいるのか分からない。
光も何もないこの場所で、固い土しかないようなこの空間で。オレは今日もここにいる。
―――終わりなんて訪れるのだろうか。このオレに。
訪れるのなら、早く来て欲しい。何も考えないのにも、もう疲れてしまったから。
それとも――と、オレは自嘲気味に笑う。
オレには終わりなんて訪れないのだろうか。
オレには―――罪には。
―――最初はよくは分からなかった。ただ、オレは"罪"らしい。
少なくとも、物心付いたときには親にそう言われてた。
親が子供に言うことは実際がどうであれ、真実だ。
親が子供に"良い子"だと言えば、そいつにとっては自分は"良い子"になり。
親が子供に"悪い子"だと言えば、そいつにとっては自分は"悪い子"になる。
―――けれど。悪い子だと言われても、親がどこが悪いのかを教えてくれるからまだいい。
オレはただ、"罪"だとだけ言われて育った。
だから、オレは自分のことを罪だと思って生きてきた。
そのことを自覚したのは、13の時。
オレは母親からオレの出生を聞いた。
母は、本当は自分こそが罪だと言った。
母は、人間だった。
母は罪を負い、魔物に成ったと言った。
母は人間だったとき、魔物の子供を盗んだという。
母には子供がいなかった。
母には子供が出来なかった。
だから母は魔物の子供を盗んだ。
母は魔物の子供を自分の子供として育てた。
けれど、ある日不注意で子供を殺してしまった。
母を見つけ、そして己の子供の亡骸を見た魔物は怒り狂った。
怒り狂った魔物は母に呪いを掛けた。
母はその魔物と同じ魔物に成り果てた。
母は泣きながら問うた。呪いを解く方を問うた。
―――魔物は言った。
生きて。殺した子供の分まで生きて。
苦しんで。殺した子供の分まで苦しんで。
怒って。殺した子供の分まで怒って。
泣いて。殺した子供の分まで泣いて。
そうして。殺した子供の分まで人生を生き抜いたのなら、呪いは解けると。
そしてそれまで死ぬことすら許されぬと。そう魔物は言った。
もう一つ、呪いを解く方があると、去り際に魔物は言った。
それは子を産むことだと。子を産めば罪は子に移り、母は呪いから解放されると。
母はその土地を後にした。生き抜くために。呪いを解くために。
生きた。母は生きた。苦しんだ。母は苦しんだ。怒った。母は怒った。泣いた。母は泣いた。
けれども、母の呪いは解けなかった。いつまで経っても、解けなかった。
そして、ある日母は一人の男と出会った。男は母に恋をした。
男は母が魔物であっても恐れはしなかった。男は母を求めた。
母は疲れていた。生きることに疲れていた。
母は忘れていた。求められることを忘れていた。
母は覚えていた。自分は子を生めないことを覚えていた。
だから母は応えた。一夜限りの夢に応えた。
そして―――オレが生まれてしまった。
ああ、なるほどと、オレは思った。確かにオレは罪だ。
母は泣いた。オレを抱きしめて泣いた。
母は謝った。オレを抱きしめて謝った。
―――何故、その日に教えられたのか、オレはもっと深く考えるべきだったのかもしれない。
最も、ソレに考え付いたとしても、オレはどうもしなかっただろうけど。
オレは名もなき洞窟に閉じこめられた。
ご丁寧に、鎖も付けて。
その鎖は真っ赤だった。ソレが何重にも、オレに巻き付けられていた。
ソレはお前の罪だと、男が言った。
お前の罪が軽くなるだけ、その鎖も軽くなると、男は言った。
オレは改めて鎖を見る。
―――永かった。
延々と続くソレが、何重にもあるソレが、オレに絡み付いていて。
男は言った。
彼女はもう気が遠くなるほど生きてきたのに、まだ罪はそんなにもある。
魔物は彼女に嘘をついたのだ。
このまま外の世界にお前を出すと、何があるか分からない。
だから、オレたちはお前をそこに置いて行くことにした。
母は言った。泣きながら言った。
ごめんね、ごめんね。必ず貴方の呪いを解く方を見つけて来るから。
オレはそんな二人をただ見ていて。
オレはそんな二人をただ見送っていた。
――たぶん、もう会うこともないだろうと思いながら。
別に、信用してないわけじゃなかった。
少なくとも、母の方は本気で涙しているようだった。
けれど。
母はもうヒトなのだ。
そして、オレは魔物。
寿命がまず違う。
呪いを解く方も、人間の一生で見つかるのかも分からない。
そもそも、ホントにあるのかどうかさえ、分からない。
だから。オレは思った。
自分はきっと、ここに一生いるのだろうと。
もしかしたら、世界が滅びるその日まで、ここにいるのだろう、と。
そして今―――相も変わらず、オレはここにいる。
ただ、あの二人がオレの知らないところで何かしてくれたのか、それとも他に何か理由があるのか鎖はあのときよりも短くなっていて。
……オレはふと気まぐれに、本当に気まぐれに、その鎖を手と手に取って――引っ張り合ってみる。
―――断ち切れない。
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そうして今日も過ぎていく。
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