ここはとてもとても平和な国。
オレはずっと、この国で育ってきた。
…オレにマフィアのボスなんて出来ないよ。
だって、いつもいてくれたキミがいなくなるだけで、こんなにも不安になるのに。
そんなオレに、キミは本当にボスが務まると思う?
こんなオレに何が出来るの? こんなオレに、キミは何を望むの?
―――でも、ね。
オレは、キミと一緒にいたいんだ。
キミと一緒に学校へ行って、笑って、怒って、他愛のないお喋りを楽しみたいんだ。
ずっとオレの傍にいてよ…ねぇ、獄寺くん……
失われし
リボーンに着いて行って――もう、何時間が経っただろうか。
ツナたちはリボーンの呼んだ車に乗り、用意されていたヘリに乗り込んだ。
最初は起きていたツナたちも、三時間ほど揺られているうちに眠ってしまった。
そしてツナが目覚めたとき、目の前にはイタリアの風景が広がっていた。
「起きたか」
いち早く、リボーンが反応する。
「いま…なんじ?」
「六時だな」
寝ぼけ眼のツナの問いに、山本が腕時計を見ながら答える。
「六時…?」
言われてツナはヘリの外を見る。六時にしてはやけに明るい気がする。
「日本じゃな。イタリアでは10時だ…そろそろ着陸するぞ。準備しとけ」
リボーンが説明する。それから十数分経って、ヘリは着陸した。
休む間もなく、用意されていた車に乗り込んだ。
そしてある施設にたどり着く。リボーンの説明によると、ボンゴレの隠し施設の一つらしい。
「ここに…獄寺くんが……?」
「……ああ」
頷くリボーン。その表情は読めない。
ここで、ツナはあることを思い出した。
「そういえば…獄寺くんがやられたって言ってたけど――」
「!!」
ツナの言葉に反応したのは、山本。
「ちょ…っ獄寺が!?」
「落ち着け山本。オレが聞いたのは、獄寺が仲間を庇って意識不明の重態になった、だけだ」
「だけって…」
リボーンは事もなげに答えると、さっさと施設の方へと行ってしまう。
仕方なく、ツナたちも続いて行った。
ドアが派手に開け放たれる。
入り口に入ると、白衣を着た男が一人すぐに見つかった。
男は突然の来賓を見向きもせずに言う。
「んだよ…怪我人と病人がいるところでは静かにしろ・って教わらなかったのか?」
それは、もう何週間も前から見なくなった医者だった。
「シャマル!!」
「あん?」
シャマルはツナを見る。途端、眉間にしわを寄せる。
「おいおい…どういうことだよリボーン。一般人を連れてくるなんて」
「悪いが説明は後だ。獄寺はどこだ」
「あー……コーヒーでもどうだ? どうせお前、寝てねーんだろ」
「シャマル!!」
リボーンが声を上げる。あの、リボーンが。
ツナだけではなく、山本まで驚いている。
「…獄寺は、今日の六時頃……意識を取り戻した」
「…っ」
シャマルの言葉に、ツナたちは安堵の息を漏らす。良かった、彼は無事なのだ。
しかし安心したツナたちとは反対に、リボーンの顔は険しくなった。
「そうか…」
「…? どうしたんだよリボーン。獄寺くんが目が覚めた…って、いい知らせだろ…? もっと喜べよ」
ツナの言い分に、シャマルはなぜか哀れむかのような視線を向ける。
「それで、獄寺は今どこだよ。お見舞いに行かねーとな」
視線に気づかないのか、山本は明るく言う。
「そうだね。リボーン、行こ」
「……オレは、いい。シャマルに話があるからな」
ツナの差し伸ばす手を、リボーンは見向きもせず答えた。
「………? そう…」
リボーンの様子がおかしいと分かりつつも、なぜかツナは詮索出来なかった。
二人はそのまま、通路の奥へと急いだ。
シャマルは二人の気配が消えるのを確認してから、リボーンに話しかけた。
「…お前も鬼だな……」
「なに、オレは忠告したんだ。"地獄を見るかもしれない"、 と。それを承知で来たのはあいつらだ」
「そーかい…」
シャマルはそこで言葉を切って…
「やっぱお前、鬼だ」
言い放った。
そして沈黙。
しばらくして、リボーンはシャマルに問う。
「使ったのか?」
「ああ…オレも気を付けていたんだがな…あの野郎、診断結果を聞いてたらしくコネを持っていた整理班に持って来させたらしい」
「そうか…」
そしてまた訪れる沈黙。
今度は、なかなか破られることはなかった。
一方、ツナたちは獄寺の行方を追っていた。
どこにいるのか分からないので、それらしい部屋を次々と開けていく。
獄寺の名を呼びながら扉を開けていくが、いたのはディーノやモレッティなど、一ヶ月以上も会わなかった面子であった。
彼らにも獄寺の行方を聞いていくが、どうも返答の歯切れが悪い。あやふやな答えしか返ってこない。
それでも二人は走り回って探し続け、とうとう最後の扉に辿り着いた。
それは一番奥にあった、一番大きな部屋だった。
ツナは扉を開け放つ。
「獄寺くんっ!!」
そこにいたのは―――
「…誰?」
「ビアンキっ!?」
そこにいたのは、獄寺の姉、ビアンキだった。
辺りを見渡しても、捜し求めている獄寺の姿はない。
「あの…ビアンキ? 獄寺くんは……」
ビアンキは顔を強張らせる。
「ビアンキ…?」
「誰にも…何も、聞いてないの?」
静かに、そう聞いてくる。その声に、生気は、ない。
「うん…誰に聞いても、教えない、知らないって…」
「そう――いいわ、これも、私の罪…」
「え?」
「あの子…隼人は、この施設にはいないわ」
「――え?」
静かに、ビアンキは口を開く。
「あの子は、今――戦場の中に、一人で、いるわ…」
言葉が出なかった。
え? なに? なんだって? 獄寺くんが? 戦場 一人で そんなバカな だって 意識不明の重態 そんな ―――え?
赤い 別れ道 夕日 あの日 最後の姿 誰もないマンション 敬礼 深いお辞儀 赤い 格好良かった ――――――お元気で
「―――――え?」
それが、今のツナに言えた、精一杯の一言。
「いったい、どういう……」
ビアンキが何かを答えようとしたとき、外から何かが来た。
それは、車。
ビアンキはそれを視界に納めると…
「………っ!!」
走って行ってしまった。
「ちょ…ビアンキっ!?」
「追いかけようぜ、ツナ」
「山本っ!?」
「あんなに元気のなかったねーちゃんが、あんなに必死になった…つまり」
今のビアンキが、あんなにも必死になる要素…
「獄寺くんっ!!」
「急ごうぜ、ツナ」
山本に促されて、ツナはビアンキを追った。
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だけど何故かその時、不安が胸を横切ったんだ。
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