運がなかった。



言ってしまえば、それだけだ。



ヒトが死ぬだなんて、ここではそれこそ日常茶飯事。



でも、お前は生きて帰って、馬鹿みたいにやばい薬を打ってしまった。



そして、お前はまた戦場へ行ってしまった。



……………今度は、一人で。
































運がなかった。



言ってしまえば、それだけだ。



でもなぁ、スモーキン・ボム。



本当に運がなかったのはお前なのか、それともオレらなのか。






























失われし






























二人は外に出る。外には医療班と思われる人間が数人とディーノ…それにリボーンがいた。


「話は聞けたのか?」


「……聞けたよ。何で黙っていたのさ」


「左腕のことか?」


「そうだよっ何で黙っていたんだよ!」


突然の大声に医療班とディーノは驚く。


ツナの大声も気にせずリボーンは言う。


「質問は怪我の具合だったからな。言っただろう? 軽いものを省くなら・と。左腕の怪我そのものは軽いものだ」


「だからって…っ」


「―――それに、それを聞いたからって、どうなっていたんだ?」


「――え?」


言われてツナは想像してみる。もしも知っていたら。


もしも、最初から獄寺くんは後遺症を受けていて、それでシェンピオを打ったと知っていたら…


「………」


ツナは絶望していただろう。


もがくことすら出来ず、途方に暮れていただろう。


「でも…だからって…」


「来たぞ」


リボーンはツナを見ずに、ただそれだけを伝える。


「え?」


リボーンの向いてる方向を見ると、わずかに見える、黒い物―――車だ。


それはしばらくして、ツナたちの目の前に止まる。医療班が駆け寄る。


程なくして、担架に乗せられた獄寺が現れた。相変わらず血まみれで、顔色が悪い。いや、もっと酷くなっているのではなかろうか。


「―――獄寺くんっ」


ツナは叫び声を上げる。獄寺はピクリとも動かない。


「道を開けてください!」


走ろうとする医療班。そこに立ちふさがる山本。


「…あの部屋まで運ぶのか?」


「…え?」


「早く答えろ! …あの部屋まで運ぶのかっ!!」


「え…ええ、そうだけ…きゃっ」


みんなまで言わせず、山本は医療班から担架を奪い取る。もう片方はディーノが持った。


「オレのほうが速ぇ! 行くぞにーさんっ」


「…あいよ、全力疾走だっ」


二人は、あっという間に走り去ってしまった。


ツナも追いかける。それに続いて、医療班も。



その少し後に、リボーンも追いかけた。





「ほい、とーちゃーく。ほら、オレらのほうが早い」


「へぇへぇ。早く獄寺を寝かすぞ」


疲れた表情で言うディーノ。全力疾走の山本に合わせ、さらにあまり揺らさないよう微調整を加えていたのだから、疲れて当然だ。


「…ちょっと、困りますって! 素人が勝手に…」


ようやく追いついた医療班は獄寺をひったくる。それに少し遅れてツナが追いつく。


医療班は手際よく獄寺の肌に付着した血を拭っていった。血まみれの服を着替えさせる。どうやらすべて返り血らしく、獄寺自身に怪我はないらしい。


着替えさせるとき、ちらりと左腕が見えた。包帯が巻かれていた。痛々しかった。


ベッドに寝かせるとすぐに獄寺の細い腕に点滴が刺される。別の医療班が暖房を点けた。


そこで一段落したのか、医療班の動きがゆっくりしたものとなった。それを見計らって、ツナが声を掛ける。


「あの、獄寺くんの容態は…」


言われた医療班は困った顔をする。


「申し訳ありませんが、お教えするわけには…」


柔らかい口調だが、頑なに拒否する態度が見える。


だが、助け舟は意外なところから現れた。


「いいじゃねーか。教えてやれよ」


「リボーン!」


「リボーンさん…しかし」


「こいつは未来のボンゴレ10代目だぞ。知る権利ぐらいある」


医療班は暫し考えてから…


「分かりました…」


渋々了承した。





「彼…隼人さんは、もうほとんどの感覚が消えています。立って歩くのが限界でしょう」


部屋を移動し、医療班は開口一番にそう言った。


「……っ」


覚悟していたとはいえ、やはりそう言われると辛い。


「浸透レベルが65%を超えましたし、もう…彼は体温調節も出来ないでしょう」


ツナの脳裏に、暖房を点ける医療班が思い出される。自分は少し暑いぐらいなのに、今の彼は寒いのだろうか。


「…そして隼人さんの面会ですが……本来ならば面会拒絶なのですが、可能な限り安静にするのなら、大目に見ましょう」


「――えっ」


医療班は溜め息を吐きながら


「どうせ言っても聞かないでしょうし…また連れ出されても困りますからね」


山本を見て言った。山本は苦笑した。


「あ、ありがとうございますっ」


医療班はツナの礼を背に、部屋を後にした。





獄寺の病室に戻ると、獄寺はすでに起きていた。ぼんやりと自分の腕に刺された点滴を見ている。


「獄寺くん、まだ寝てなくちゃダメだよ」


ツナはそう声を掛けるが、獄寺に反応はない。


「獄寺くん…?」


さっきよりも少し大きな声。それでも獄寺に反応はない。


「――獄寺くんっ」


ツナは走り出して、獄寺の肩に手を置く。獄寺はかなり驚いて、ようやくツナを見た。


「―…―、・・―」 10…代、目


「…獄寺くん……まさか」


「どうやら、聴覚もやられたようだな」


冷静にリボーンは答える。嫌なくらい、冷静に。


「獄寺くん、獄寺くん……」


ツナは獄寺の胸に顔を埋めて泣いた。


獄寺はツナの肩を優しく撫でる。感覚がほとんどないはずなのそれは優しく、そして心地よい。


ツナはふるふると首を振る。違う、本当に辛いのは獄寺くんなのに、本当は逆のことをしてあげたいのに。


「・・――、…――・・―」 10代目、オレは大丈夫ですから。だから泣かないで下さい


ぱくぱくと獄寺は口を動かす。こんなときでも獄寺は、自分よりも主人の方が心配のようだ。


「……獄寺っ」


いたたまれず、山本は獄寺をツナごと抱きしめる。突然のことに獄寺は驚くが、暴れたりはしなかった。


「―・・―――…っ」 バカ山…オレは大丈夫だって・言って…


聞こえない台詞の途中で、獄寺はむせた。苦しいのだろうか、胸の辺りを押さえてる。


「獄寺くんっ!」


「獄寺っ!」


「―、・・――…」 だい、じょうぶです…


息も絶え絶えのくせに、獄寺は笑顔を作る。ツナたちを安心させるように。


「……ったく、なにが大丈夫だ? 獄寺」


今まで黙っていたリボーンが口を開く。いきなり聞いたツナたちは、その言葉の意味がよく分からない。


「こいつ、お前らを心配させないために大丈夫、大丈夫って言ってんだぞ…声が出ないくせにな」


「――え」


ツナは獄寺を見る。獄寺はなんとなく察しついてしまったのか、曖昧な笑みを浮かべた。


ツナは獄寺を抱きしめる。力一杯抱きしめたいのを堪えて、出来るだけ軽く、出来るだけ優しく。


「獄寺くんのばか……ばかばか」


「ツナ…」


ツナは抱きしめる腕を少し、ほんの少しだけ強めて…


「ごめん…」


と、呟いた。それは自分にも聞こえないほど小さな声なのに。俯いてるから獄寺には分からないはずなのに。


それなのに―――


「……………」


獄寺はツナの頭を撫でて返答した。ツナの目にまた涙が溜まる。


「……ツナ。そろそろ獄寺を休ませてやれ」


潮時だ・とリボーンは告げる。もともと彼の身体は、面会拒絶なほど衰弱しているのだから。


「………うん」


ツナは頷いて、獄寺をベッドに寝かす。獄寺は一度三人を見ると、すぐに寝入ってしまった。


それほど疲れていたのに、自分は無理をさせてしまったのかと、ツナは己を恥じた。


それから三人は、獄寺に夕食を持ってきた医療班が来るまで、ずっと獄寺を見守っていた。





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寝ているキミの顔色はすごく悪くて。

見えるキミの腕はすごく細くて。

―――――でも、生きてて。