獄寺くんは仕事の報告に来てくれた。それはいつもの日課。
事務的な会話。とはいえそれは別に冷たいものでもなく。それはいつもの事。日常の一部。
それが終わったら、今日は終わり。明日に備えて、休息に向かう。
だけれど。
「ねえ、獄寺くん」
「はい?」
今日は、いつもとは違う。自ら変化を与える。
「よかったら…少し。お茶に付き合ってくれない?」
「え…?」
獄寺くんは少し考える。
けれど。やがて。微笑んで。
「分かりました。ご一緒させてもらいますね」
なんてことを言う。言ってしまう。
オレは今まで、そんな誘いをしなかった。
だって獄寺くんには、あいつがいたから。
だけど。
「…今日はリボーン、いないから…獄寺くん寂しいんじゃないかと思って」
「見抜かれてましたか」
獄寺くんは、笑う。あいつを、リボーンを任務で追いやった、オレに向かって。
その笑みから感じ取れるのは信頼、親愛…友愛の、好意。
昔から変わることのない、眩しいほど―――痛いほどの、敬愛。
その視線から逃げるように、オレは席を立つ。
「お茶の用意してくるね」
「ああ、それでしたらオレが」
「いいからいいから。獄寺くんは座ってて」
オレを気遣う獄寺くんを制し、オレは一人勝手場へ。
あいつの影響ですっかり獄寺くんも愛飲するようになったコーヒーを淹れ。
そのコーヒーに、白い粉を混ぜた。
水面に映るオレの顔は、自分でも驚くほど無表情で。
適当に菓子も添えて、獄寺くんのもとへ。
「お待たせ」
「いえ」
獄寺くんが笑顔で迎えてくれる。
柔らかい微笑み。
愛しい存在。
思いが募る。
オレは獄寺くんにコーヒーを差し出す。
「淹れ慣れてないから、美味しくないかもしれないけど」
「そんなことないですよ」
獄寺くんがコーヒーを口に含み。
笑顔を硬直させる。
「…次の機会があったら、その時はオレが淹れますね」
「ははは」
次の機会。
獄寺くんは、次もまたあると、いつかは分からないけど、きっと訪れると信じてる。疑いもなく。
何て愛おしい。
何て愚かしい。
何て…悲しい。
獄寺くんはオレに気を遣ってだろう、コーヒーを飲み干す。
自ら悲劇に身を浸らせていく。
「無理して飲まなくても、よかったのに」
心からそう思う。
獄寺くんは、苦笑い。
そんな顔も、もう見れなくなる。
「…獄寺くん、聞いていいかな」
「はい?」
「獄寺くんは…いつから、リボーンが好きだったの?」
話題なんて、何でもよかった。
薬が効くまでの時間が稼げれば、何でも。
けれど、どうしてオレは、よりにもよってそんなことを聞いたのだろう。
他にも話題は、いくらでもあったのに。
自分でも、よく分からない。
獄寺くんはオレの問いから過去に思いを巡らせ、記憶を辿っていた。
「…最初は、尊敬だったんです」
獄寺くんは、ぽつぽつと語る。
過去へ思いを、巡らせる。
尊敬が、情愛に変わるまでの過程を。
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