10代目に聞かれて、オレは思い返す。
そういえば、確かに…オレは、いつからあの人が好きだったのだろう。
最初は、敬愛だった。
会う前から耳にしていた、その噂だけで尊敬するのに十分だった。
そして実際に会って…共に日常を過ごして。
少しづつ…触れ合って。
厳しさの中にある、優しさに気付いて。
その頃には、きっともう、好きだったのだろう。自覚はなくとも。無意識のうちに。
自覚したのは―――ああ、そうだ。
いつだったか、オレが酷く、大きな怪我をしたとき。
眼が醒めて、すぐに飛び込んできたあの人の顔。
その表情。それはいつもと同じだったのに―――何故だか、いつもと真逆のものに感じられて。
起きたか、と小さく呟かれた囁き。
頬に手を添えられて。
心配した、と小さく放たれた言葉。
添えられた手に、そっと自分の手を重ねて。
その時、零れるほど溢れた感情。
後に、怪我をしたオレを見つけたのも、手当てをしたのも…起きるまで、ずっとオレの傍にいてくれたのもあの人だと聞いて。
胸に込み上げた思い。
畏れ多いと、気付かぬ振りをするなど、それが出来る時期はとっくに過ぎていて。
…玉砕覚悟で告白したなあ。
懐かしさに、笑みが零れる。
絶対に報われないと思ってた。
自分は出来の悪い教え子程度にしか思われてないと、信じていた。
…あの人は、愛人にしてほしいと願うオレの言葉を聞いて。
…お前を、愛人にすることは出来ない。
って言って。
あの人は心が引き裂かれそうになったオレに、優しく触れて。
…お前は、オレの本命だからな。
って言って。
オレは耳を疑った。
そんな都合の良い…都合の良すぎる展開があるなど、信じられなくて。
だけど、現実で。
それからはもう、夢のような毎日で。
…本当に幸せな毎日で。
つらつらと喋るオレの話を、10代目は黙って聞いている。
…そういえば、そもそもオレは、いつリボーンさんに好意を持ったのかを聞かれたはずだ。
気付けば、語る必要のないことまで話していた。
途端に、恥ずかしくなる。
「す、すみません、10代目」
「ううん。お菓子がいらないくらい甘い話を、ご馳走様」
そんなことを言われて、ますます恥ずかしくなる。
…そろそろ、おいとましよう。
気付けば想定以上に長居してしまった。
不意に10代目が口を開く。
「―――リボーンが帰ってくるのが、待ち遠しいね」
「? ええ、そうですね」
10代目は笑っている。
笑ったまま、告げる。
「リボーンが帰ってきたら、セックスするんだもんね」
―――――。
え?
オレの思考が、言われた言葉を理解するよりも早く。
10代目は、取り出した携帯端末を操作して。
―――音声が流れた。
『…行かれてしまうんですね』
『淋しいか?』
『当り前じゃないですか』
………。
え?
聞き慣れた声。
聞き覚えのある会話。
それは今日の…今朝の……
『なるべく早く帰ってくるから』
『………』
『…獄寺?』
『その―――リボーン、さん。任務から戻られたら……その…しません…か?』
『は?』
10代目が携帯端末をオレに向ける。
画面に映るのは、オレの部屋。そこにいる、オレとリボーンさん。
10代目は、笑っている。
『…お前……』
『………』
『…無理しないでいいんだぞ』
『それを言うなら、リボーンさんこそ』
『………』
『それに…前回は、特殊な状況下だったじゃないですか…だから……その、普通に…普通の……』
『…分かったから、もう言うな』
『リボーンさん…』
『…分かった。…当日になってやっぱりやめだなんて言うなよ』
『………はい』
10代目が、映像を止める。
10代目は、笑っている。
「10代目、これは一体―――!?」
オレは立ち上がろうとして―――
そのまま倒れた。
「………!?」
身体が、動かない。
10代目がオレに近付く。
10代目は、笑っている―――
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