「…すぐに追い払います。リボーンさんは隠れていて下さい」
「………」
リボーンは何か言いたげに獄寺を見上げたが、結局黙って指示の通り動いた。
リボーンを見届け、獄寺は後ろに振り返る。
現れたのは、獄寺の見覚えのない男。その出で立ちからして、先日のごろつきの仲間とは考えられない。
「…オレに何か用か?」
「人んちのシマを我が物顔で闊歩しといて、その台詞はないんじゃないか?」
言われて、気付く。この辺りは獄寺もまだ足を踏み入れた事がないほどマフィアのアジト近くだ。
「…悪かったと謝ってすぐに退散すれば…見逃してくれるか?」
「悪童にしては殊勝な心掛けだが…この世界は舐められたら終わりだ。意味は分かるか?」
ここで獄寺を逃したら他のファミリーに笑われるという事だ。そしてそれは、面子に重点を置いているマフィアにとって許される事ではない。
互いの要求は通らない。故に、片方の要求しか通らない。どちらの要求が通るのか。それは原始的かつ、暴力的な方法で決められる。
先手を取ったのは獄寺で、相手に殴り掛かった。
だが相手はそこらのごろつきではない。マフィアだ。容易く獄寺の攻撃を躱す。
獄寺も喧嘩慣れしているとはいえ、マフィアほど修羅場を潜っているわけではない。争い事の経験は質も量も獄寺の方が劣っていた。
けれど、獄寺は引けないのだ。
守るべき存在の為に。
リボーンの為に。
予想外の粘りを見せる獄寺に、相手はだんだん苛立っていく。
だが焦っているのは獄寺の方だ。
時間が経てば経つほど、戦闘が長引けば長引くほど、リボーンの治療が遅れる。
早く、早く倒さねば。そして早くリボーンを病院に―――
「獄寺。右に避けろ」
不意に、声が聞こえ。
考えるよりも前に、獄寺は身体を右に動かしていた。
先程まで獄寺がいた場所に、銀色の軌跡が描かれた。
気付けば、相手の手にはナイフ。
相手は自分の攻撃を避けられた事に驚いていた。
獄寺も、リボーンの声がなければ避けられなかっただろう。
相手は光物を取り出してきた。
他に何を持っているか分からない。
自分は丸腰。
だが丸腰の一般人相手に光物を出したという事は、自分が追いつめられてきている事を意味しており。
更に相手は、不意を突いたはずが逆に突かれて固まっている。
勝機があるなら今だが……
1. 押し通す
2. 逃げる