「リボーンさん、こっちです!!」
「ん?」
獄寺はリボーンの手を引っ張り走り出す。リボーンはされるがままに着いて行った。
獄寺は逃げる。リボーンを連れて。
後ろから罵声が聞こえる。獄寺は無視する。
今はとにかく、リボーンだ。一刻も早く、リボーンを病院へ―――
追っ手を振り払い、表通りに出る。
息を切らしている獄寺をリボーンが心配する。
「大丈夫か? お前」
「ええ…」
言ってから、はっと獄寺はリボーンを見た。
自分が息を切らせるほど走り回らせて、手負いのリボーンの傷が開いてしまったかも知れない!
抱き上げるなりおぶるなりしてから走ればよかった!!
「す、すいませんリボーンさん! 配慮が足りませんでした!!」
「?」
無論リボーンは無傷なので何の配慮もいらない。
そして自分が怪我をしている発言についてはとっくの昔にきれいさっぱり忘れていたので獄寺が一体何に必死になっているのかも分からない。
「すいませんリボーンさん、怪我は大丈夫ですか? おぶりましょうか?」
「怪我?」
ここでやっと思い出した。自分は怪我をしている設定だった。
「ああ、全然平気だ。走っているうちに治った」
「そんなわけないでしょう!!」
そうか。怪我というものは走っているうちに治らないものなのか。リボーンは学習した。一つ人間の世界について詳しくなった。
リボーンが知識を増やしているうち、獄寺がリボーンの手を引いてどこかへと向かう。
「どこに行くんだ?」
「病院ですよ。決まってるじゃないですか」
「病院? お前、怪我か病気でもしているのか?」
「何言ってるんですか、オレじゃなくてリボーンさんを診てもらうんですよ」
「何?」
病院。これから向かう。自分を診てもらう。
病院。たくさんの人間がいる事だろう。自分を見れる人間もそこそこいるだろう。だが、それでも自分を見れない人間の方が多いだろう。
そんなところに行く。自分が行く。これから。
「それは駄目だ」
ピタッとリボーンは足を止めた。獄寺がつんのめる。
戸惑い顔で獄寺が振り返る。困った顔でリボーンを見つめる。
「…どうなされたんですか?」
「病院は駄目だ」
「金の心配ならしないで下さい。オレが出しますから」
「そういう問題じゃない」
「…なるほど。分かりました」
「分かってくれたか」
「はい。…リボーンさんは裏稼業の人間なんですね。大丈夫です、オレも闇医者の一人や二人の知り合いはいます。口も堅いですよ」
「違う」
当然だが分かってくれてなかった。
どうする。どう言おう。いっその事もう帰るか? とリボーンが思い始めた時―――気付いた。
…周りの人間が、こちらの様子を窺っている。
それもそうだ。傍からは獄寺が一人、あらぬ方向を見ながら割と大きな独り言を言っているように見えるのだから。目立たないわけがない。
しかも先程のように人通りの少ない裏通りを歩いていたわけではない。これまでのように歩きながらではないのだ。どうしても悪目立ちしてしまう。
しかし獄寺にはその事が分からない。不躾な通行人を睨み付け、そそくさと退散させる。
しかしそんな中、獄寺に話掛ける人間が現れた。
「おい」
「うるせえ」
「おい、悪童」
「今忙しいんだよ」
「変な薬でもしているのか? お前、何一人でぶつぶつと呟いてんだ?」
「は…?」
獄寺は話掛けて来た男を見て―――次にリボーンを見る。獄寺にはリボーンの姿がはっきりと見えている。
けれど男は、訝しげに獄寺を見るだけだ。
その目線はリボーンには向いてない。向かない。リボーンの姿が見えていない。
その事に気付いた獄寺はぞっとした。
先程こちらをじろじろと見てきた通行人も、自分だけを見ていた気がする。そう、そうだ、何故あいつらはあんな目でこっちを見ていたんだ?
ただ、二人の人間が話していただけだというのに、どうしてあんな目で。
男は「ああ、バスが…」と呟き、何かに一人納得し、「今日は大目に見てやるから、帰って寝ろ」と言ってどこかへ行ってしまった。しかし獄寺は聞いてない。
普通の―――いや、普通ではないが―――人間だと思っていたリボーンが……人間ではないと、そうだと気付いて。
「…リボーン、さん?」
「………」
リボーンは黙っている。
黙ったまま、獄寺を見ている。
リボーンと眼が合う。
その黒い眼の深さに、魂ごと吸いこまれそうになる。
足元が不安定になり、立っていられない。
思わずふらつく獄寺に、リボーンが手を差し出す。
…が、獄寺はその手を取らない。リボーンと距離を取る。
「リボーンさん…あなたは、一体何者なんですか…?」
「………」
問い掛けられ、黙るリボーン。
何故、黙るのだろう。
ただの子供だと、言い張ればいいのに。
あんな奴の言う事を真に受けるなと、からかわれているだけだと、言えばいいのに。
けれどそういう事もせず、リボーンは口を開いた。
獄寺は…
1. その声を聞かなかった
2. その声を聞いた