「提案は有り難いが、家人の許可は取らなくていいのか?」


「大丈夫です」





リボーンが心配しているのは獄寺が家人に怒られるのでは、とか急に押し掛けたりして家人に迷惑を掛けるのでは、とかではもちろんなく、純粋に自分の姿が見えないであろう家人を見て獄寺が自分を不審がる事だった。


しかし獄寺の次の発言でその心配は杞憂だったと知った。





「オレ一人しか住んでないんで」


「なるほど」





事前に聞いた家族構成によると両親と姉がいるらしいが、別居でもしているのだろうか。そこまでの情報はなかった。


ともあれ、獄寺一人だけなのなら何の問題もない。リボーンは獄寺の提案に乗る事にした。










暫く歩いて着いた場所は、屋敷だった。


大きい、広い屋敷だった。一人で住むには余りにも大き過ぎて、広過ぎる屋敷だった。


掃除が大変そうだ、と思えばまるで心を読み取ったかのように教えてくれた。恐らく誰もがまず最初に思う事なのだろう。あるいは、獄寺自身がまずそう思ったのかも知れない。





「家の事は、ハウスキーパーがします」


「庭の手入れもか?」





リボーンの目線は庭に向いていた。綺麗に整えられている。


獄寺が、そっちは庭師が別に、と言った。こちらは季節にもよるが大体月一で手入れをしているらしい。そして今月の手入れはつい数日前に行われたので暫くは来ないという情報が与えられる。


ハウスキーパーがいる時に鉢合わせたら面倒になるな、とリボーンは思った。ハウスキーパーと自分だけならいい。ハウスキーパーと獄寺だけでもいい。だが3人が揃うと非常に面倒な事になりそうだ。


だが、どうやら獄寺とハウスキーパーの仲は悪いらしく会話らしい会話もないらしい。お互い会わないようにしているし、会っても無視しているとか。


リボーンは何故人間というのは同じ種族でもいがみ合うのかという疑問を抱いていた。他の動物はそんな事ないのに。するとしても餌の横取りだとか、雌の奪い合いとかだろう。人間のこれもそれの延長線なのだろうか?


リボーンが首を傾げる間、獄寺が前に進み門を開ける。どうぞ、という声にリボーンは歩き出す。


広い室内は、塵もなければ埃もなく、綺麗なものだった。一人のハウスキーパーが数時間でしているという話だが、だとすればかなり優秀なのではないだろうか。





「優秀でなければ追い出してますよ、あんな奴」





言えば、獄寺はそう吐き出す。


道で名前も知らない他人の為に身を投げ出すかと思えば、身近な人間には辛辣に当たる。リボーンには人間が分からない。


夕飯はなんと獄寺が作った。こういうものこそハウスキーパーの仕事ではないのかとリボーンが尋ねると、「あの女の手料理なんか喰うぐらいなら姉貴の料理を喰う方がまだましです」という返答が返ってきた。


獄寺は姉も嫌いなのだろうか。それとも姉は料理が下手なのだろうか。リボーンには判断が付かない。


料理の味は分からなかった。死神に食事は必要ない。死を司る神が、生きる為に最も必要な行為など必要ない。


とはいえ、獄寺に話を合わせる為一応褒めておいた。なんか張り切ってたし。


部屋だけは腐るほどありますから、好きな部屋を使って下さいと獄寺はリボーンに告げた。


部屋は腐らないだろう、と思いつつリボーンは獄寺の隣の部屋を選んだ。ターゲットと近い方がいい。なんなら獄寺と同室でもいいぐらいだ。


山のようにある部屋は、主もいないのに綺麗に保たれていた。これもハウスキーパーがしてくれているのだろう。優秀だ。


リボーンは何となくベッドに腰掛ける。眠る必要はない。とはいえ朝まで獄寺と接触出来そうにもない。


さて…どうしようか。





1. 朝まで待機


2. 外に出てみる