時は暫し戻り、これはリボーンがボンゴレを発ってから数日後の出来事。

自室のベッドで静かに横になっているのは銀髪の青年。



リボーンの恋人。獄寺隼人。



窓の外には綺麗な星が輝いている。…ただ彼はもはやその景色を見ることは叶わないが。

完全に消え去った視力。肉体を襲う痛みはまだ続き、それは下から酷くなってくる。

…彼の足は、もう動かない。



そのことに対し、悲観はない。後悔も。…全ては、分かっていた結果だ。

それでも不満があるとするならば、いきなり消えたリボーンだが。



…死んでいくアルコバレーノ。彼だけでも守ろうと保護指令が下ると同時にその姿を消してしまった。

外には今まで以上に命を狙う人間がいるというのに。



「まったく…馬鹿な人です」



こちらにまで害が及ぶと思ったのか。獄寺の負担が少しでも軽減出来ると思ったのか。…自分だけの問題だからと、そう思ったのか―――

「…自分の身ぐらい自分で守れますし、身体の痛みなんて望むところだし、あなた一人だけの問題じゃ…ないです」

寂しそうに、獄寺はそう呟いた。





- 恋人からの伝言 -





…オレがあなたを初めて見かけたときのこと、まるで昨日のことのようによく覚えています。

それは寒い、秋のことだった。

見掛けたのは偶然。その頃はまだアルコバレーノも知らなかったから、赤ん坊が歩いてるだけだと本気で思った。



だけど。



大柄の男が数人、その赤ん坊に襲いかかっていった。

殺される―――反射的にそう思い、思わず目を瞑った。

響く銃声。怯える身体。だけど恐る恐る目を開けると………そこには倒れてる男たちと無事な赤ん坊。



…その姿の、なんと凛々しかったことか。



彼に憧れて、自分の力でマフィアになるのが夢になったのだと言ったら彼は一体なんと言うのだろうか?

ボンゴレからのスカウトが来たとき。もしかしたらあの人に会えるだろうかと真っ先に思ったのだと知ったら、あの人は一体どう思うのだろうか?



日本への任務が来たとき。あなたに会えるのを楽しみにしていたのだと伝えたら。

あなたと初めて対面したとき。本当に嬉しかったのだと言ったなら。



あなたの生徒になれて、本当に誇らしかったと告げたなら。



オレはあなたの傍にいれるだけで幸せでした。だってあなたはオレの初恋の人で、憧れの人だったのですから。

…だけどオレは苦しむあの人を前に何も出来ないけど。

オレにあの人を幸せに出来るだけの力が、あればよかったのに。

……………。



と、何かの気配を感じた。思わず傍に置いといた拳銃に腕を伸ばす。

警戒は一瞬。だけどすぐにそれを解いた。感じた気配は知ってる相手のものだったからだ。



「なんだ…お前かよ」

「………」



相手は無言。…まぁ、いつものことだ。

こいつ口数少ないからな…



「…なんか用か?」



久々出す声は、掠れていた。もしかしたら…じきに声も出なくなるのかも知れない。





「クローム」





相手の名前を呼べば、僅かに反応する気配。そういえばクロームと会うのも思えば久し振りだな…こいつはこの騒ぎの中今までどこにいたのか。

つーか本当に何の用なんだ…見舞い…? まぁ、いいか。



これも何かの縁。と思っておこう。



「クローム」

「…何?」



もう一度名前を呼ぶと、今度はクロームも返答を返してきた。



「伝言を…頼みたい」

「伝言…?」

「そう…オレから……リボーンさんに……」



もうじき、目だけでなく口も使えなくなりそうだから。

もうじき、足だけでなく腕も動かなくなりそうだから。



―――もうじき、死んでしまいそうだから。



苦笑する。この嘘付きめ。

死なないと、あの人に告げたくせに。

なのにあの人と愛人なって…一週間も経たないうちに死にそうになってるなんて。



…リボーンさんに知られたら、愛想を尽かれそうだ。

そう、思いながらも言葉を紡いでいく。



「…忘れないで下さいって」



どうか、どうか。



あなたはどうにも簡単なことをすぐに忘れてしまいそうですから。

だから、どうか。忘れないで下さい。だから、どうか。覚えていて下さい。

それが…あなたの愚かな恋人の、最後の願いです。

……………。

………。





彼は私に言葉の限りを尽くすと動かなくなりました。

もう彼は苦痛に顔を歪めることもなく。呼吸で胸を上下させることもありません。死にましたから。

結局リボーンさんはようやく手に入れた最愛の人をも失くしてしまいました。


やはり呪いに対し何の耐久力もない人間には、荷が重かったのでしょう。

…それも、呪いを抑えるおしゃぶりがなければなおのことに。



―――私が…殺したようなもの……



私はポケットに手を伸ばす。中には色鮮やかな合計七つのおしゃぶりが。

骸様の命により、獣の姿となり奪い。あるいは弱った彼らを殺して奪った合計七つのおしゃぶりが。


これがあれば…きっとここにあったのは。もう少し別の結末だった…

真相を知らぬとはいえ、彼は私を信じ………そして伝言を託した。



それに応えられるのは、私だけ。



私は―――





1.伝言を伝える


2.伝言を伝えない


3.私はあくまで傍観者